『契約』

突然の儀式への乱入者に、神父は苛立ちをあらわにした。
「邪魔立てするか、貴様!」
「別に邪魔するつもりはないんですがね……」
眠たげな目をした和装の男が口元を歪める。
「……借りだけは、返させてもらいますよ」
神父は絶句した。
目の前のしょぼくれた中年男は確か、事故に巻き込まれた人物の護衛をしていただけのはずだ。
それだけの関わりの薄い人間が、なぜ肝心な儀式を知り、そこに乗り込んできたのか。
神父の動揺をよそに、闖入者を排除すべく、信徒たちが一斉に男に襲い掛かった。
多勢に無勢の言葉通り、一瞬で片がつくはずだった。
中年男の眠たげな目は相変わらず、殺気だけが別人のようにあふれていた。
男は手にした刀で巧みに攻撃を捌いていき、幾人かの信徒が倒れた。
「そ奴を捕らえよ!」
気を取りなおした神父の指示で、男の武器がもぎ取られた。
男は舌打ちを一つして、周囲に使えそうなものはないか探した。
あった。
一振りの刀が紋様の描かれた中心に据えられていた。
彼が状況を把握してから武器を構えるまで、誰一人として邪魔できなかった。


「……それは!」
信徒たちはざわめいた。
教団内外に多数の犠牲者を出したのは、その刀を支配するためではなかったか?
神父は、次の瞬間に神罰が当てられ、男が狂死することを祈った。


男の入ってきた扉のところに、車椅子の老人が佇んでいた。
「いや、その刀は主足る者を求めていただけに過ぎぬ。そして今や真の主を手に入れた」


そこにあったのは使い手と刃が一つとなった、ただ一振りのカタナ。
一撃で、信徒たちに死をもたらし。
返す刀で、神父の命を、そして呪詛をも断ち切った。


「陳大人(チャンターレン)、今の言葉は本当ですか」
車椅子の背後から、声がかけられた。
老人は振り向きもせずに答えた。
「然様。わしの見立てが確かなら、かの刀を回収するにはあの男ごと持ち帰えらねばなりませぬ」
「そのようなこと、できぬと知っておりましょうに」
声が苦々しさを帯びた。
「せいぜいが外部協力者として協力を仰ぐ程度です」
「司教殿、あやつの人柄は老骨が保証しましょう」
「大人がそうおっしゃるのでしたら」
二つの視線は、使い手と剣が言葉を交わすのを待っていた。


これが“用心棒”ジンとその相棒たる妖刀、時雨のはじめての出会いである。


Cast
中年
 “用心棒”ジン(カブト◎、クロマク、カタナ●)

妖刀
 時雨(アヤカシ◎●、カゲムシャ、ミストレス)


特別出演・老人
 陳元義(バサラ◎、クロマク●、マヤカシ)


解説
ジンと時雨が『契約』に至った過程。
守り刀として打たれた時雨は、主を持たないまま封印されていた。
封印は解かれたが、手にしたものが主になりうるか、心を試す。
人に狂気をもたらす妖刀として『氷の静謐』に利用されようとしていた。
全く別の件でその『氷の静謐』に挑んだジンは陳元義の協力で儀式に乗り込んだ。
18:06 04/12/16