『ある殺し屋の記録』

×月○日 夕方から雨
バーのカウンターで久しぶりにタカシナに会った。何年ぶりか。「おにいちゃん」はよせ。
探偵になったとか言っていたが、どうせ口八丁だけで何とかしているのだろう。
ボックスにツヅキがいたが見ない振りをした。奴は女連れだった。
カーロスは探偵としてのタカシナと付き合いがあるらしい。この街は狭い。
それにしてもカーロスが芸風を変えていたのは笑えた。キースでも感染ったのか。
ガキを拾うなんて随分とありふれた話だ。とりあえずタカシナも仕事に有りついたようだ。
俺もそろそろ仕事をしよう。改良したやり方も試してみたい。
その後タカムラと非直接的接触。あの方法ならこちらを呼び出す必要はないだろうに。
取り分がこれ以上減るのは我慢できないので受けることにする。
生死不問は話半分に聞いておく。前金もない依頼。ろくに期待されていないらしい。

×月●日 雨のち曇り、一部赤い雨
ターゲットは企業内のダブルスパイがある日失踪、そのままサイコキラーになったらしい。
突然サイコキラーになるような奴の気持ちはよくわからん。
タカムラから追加情報。だが大して重要とも思えない。リストと言われてもな。

足で情報を拾っていると妙なメスガキを連れたタカシナと会う。だから「おにいちゃん」はよせ。
昨日カーロスが言っていた件らしい。片付いたらしいので次の仕事をやることにする。
こいつなら片棒を担がせてもそんなに気にしないだろう。ターゲットの映像を渡す。
別れ間際、タカシナのリンクスからコール。メスガキはターゲットを知っている?
口を使うことはあの女に任せておくことにする。それにしても何で数メートル先に無線を使うんだ。

その後、ターゲットがスラム近くの風俗店街で見かけられた話をスクワッターから拾って移動。
途中で昨日ターゲットが仕事したらしい現場を眺めていると、ツヅキに見つかった。
露骨に俺を疑っているらしい。俺のメインは爆弾だと言うのに。
拾ったアンプルを取り上げられる。メーカー不明のコンバットドラッグで流通していない物らしい。
Xランクじゃハウンドの仕事じゃないだろうに、無駄に勤勉なイヌだ。
とりあえず奴は事件を止めたいらしいので、目撃情報を譲って何とか協力態勢を取りつける。

タカシナからスキルの提供を頼まれてグリーンのウェブカフェに。
さすがに普段の格好では場違いなので、多少着替えていくと笑いやがったあの女。
メスガキと女クグツと同じテーブルに着く羽目になる。確か昨日ツヅキとボックスにいた女だ。
名前は一世代前の義体みたいだった。所属は考えられる限り最悪。血の気が引いた。
タカシナはメスガキのIANUSに入っているデータを外したいそうだ。
昔こいつの前で見せた圧縮ツールで何とかなるだろうと考えたらしい。
だがスキルを提供しても俺の得はなし。それは良いとしても何でこのクグツはここにいるんだ。
今更タカシナの払える額をもらっても仕方がないので渋っていると、「お願い」と来た。
人前なので涙はなかったが、俺はこいつの「お願い」には何故か弱い。人助けなんて柄でもないが。
専門は破壊で修理じゃないと何度言ったか、俺自身も憶えていない。こいつが数えているはずもない。

実際にデータを抜くのは自作のツールを使えば簡単な作業だった。詳しいことは秘密だが。
このツール自体が再利用できないので一から組みなおすのが面倒だ。
スロットからデータを引き抜くと、ガキは今までの“怯える小動物”じゃなくなった。つまらん。
ざっと確認すると内容は何かのリスト形式。……リスト?
女クグツは俺の脇からデータの画面を覗き込むとそれだけで何か理解したらしかった。
どこか当然のように取引を持ちかけてきた。データは欲しいがターゲットはいらないと。
タカシナが俺の商売もひっくるめて全部吐いたらしい。こいつを当てにした俺がバカだった。
二人はどんな関係なんだか。ファーストネームで呼び合っているようだ。タカシナはバイだったか?
その取引自体には問題はなかった。タカムラの依頼にはリストの回収は含まれていないしな。

何かガキが話したそうにしていると言ってタカシナが話しかけた。意外と探偵が様になっていた。
ガキはだらだらと言いたいことを話した。タカシナは熱心に、もう一人は冷静に聞いていた。
俺は半分くらい聞き飛ばした。ターゲットに拾われて暮らしていたくだりで失笑しそうになったが。
本当にありふれた話だ。この街には行き場のないガキが多すぎる。
要するに単なる感傷でターゲットを追い込んだ原因はこいつらしい。他にもあるかも知れんが。
ターゲットがサイコになった話を俺が教えてやるとガキは泣き出した。何だこの想像力のなさは。
女二人ににらまれそうになったので、ツヅキが居場所を追っている話をして早々に席を立った。

開店前の風俗店を当たって幾つか外れを引いた後、ある一軒で当たりを引いた。
店の中は、頭の配線がいかれた芸術家が改装を引き受けたみたいだった。
タカシナとガキは目一杯びびってた。まあそうだろう、俺だってここまではめったにやらない。
息をしていない人間を二桁見た時点で俺は今回の仕事の失敗を予想した。
あのツヅキがターゲットを見逃すことがないような気がして気が滅入ってきた。

結局人助けをするには遅すぎて、ターゲットを押さえるには間に合ったようだ。
ターゲットの頭の配線は最大限にいかれていて、その雰囲気にツヅキが呑まれていた。
ガキにターゲットが目をつけて、それを女クグツが挑発して気を逸らそうとした。
俺はツヅキに確認を取った。どうやら俺の仕事を黙認してくれるらしい。
どうせなら新しいやり方を試そうと近寄ろうとしたとき、ぞろぞろと後ろから邪魔者がやってきた。

連中のリーダーは女クグツの知り合いらしい。そうそうトツカじゃない方だ。
そこまで知られたからにはお前らを生かして帰す訳にはいかない、と予想して俺は笑い出した。
予想を口に出したが外れた。つまらん。
リーダーはムラクモを殺してデータをもらうだけで良いと言った。俺とは利害がぶつからない。
ラクモは堂々と言い返した。タカシナとツヅキも同意しているようだった。
俺は黙っていた。この三人を敵に回しても後々祟られるような気がしたからだ。

ターゲットは牽制のつもりの一撃であっけなく気絶した。
手痛い反撃を食らって武器を壊されたが、何とか俺は意識を保っていた。
ツヅキに加勢しようと向き直ったときには、連中も全員片付けられていた。
女二人が素早く場を仕切り始め、俺はターゲットにとどめを刺すチャンスを失ったことを知った。
後はツヅキの、そしてハウンドの取り分だ。今回は完全に負けだ。

×月☆日 地獄のような晴れ
そもそも、タカシナに仕事を回したのが間違いだったのか? 
あいつは探偵としての手法を身に着けていて、どうやら俺はそれを見くびっていたらしい。
結局仕事はやりそびれ、改良したやり方も一つも試せなかった。
余所の街で少し腕の錆びを落としにでも行こう。

出かける支度をしていると、タカムラのところからエージェントが来た。
これなら電話をかけても変わらないだろうに。金の使い方を間違えているとしか思えない。
そして言いたいことを好き勝手抜かした。俺を何だと考えているんだ。使い回しの効く駒か。
俺の背後を調査するくらいなら最初からターゲットを調査して情報を回せ。
前金もなしでチハヤとハウンドに喧嘩を売れと言うのかこの女は。
事態を収拾したいのなら最初から社員を使えよ。断るに決まっている。
何が「ごきげんよう」だ。ふざけ
(ここで記録は終わっている)

Cast

 “Code:D”蛟 Snark(32歳/♂/タタラ●、カタナ◎、チャクラ)
タカシナ
 高科みやび(25歳/♀/カブキ、マネキン●、フェイト◎)
ツヅキ
 都築螢吾(28歳/♂/チャクラ●、カブトワリ、イヌ◎)
ラク
 “影の女帝 Shadow Mistress”叢祐子(26歳/♀/ミストレス●、クグツ◎、カゲ)

Ruler
 YAN

Author
 松江あきら
0:27 05/03/13