『義姉弟(きょうだい)』

「ちょっと、聞いてるのかい?」
河渡銀二は黙って窓から見える空を眺めていた。
この街では高層ビルの上階に来ないと空は欠片しか見えないのだ。
音羽南海子は深くため息をひとつついて大声を出した。
「銀二! 銀の字!」
「……ん? ああ、俺?」
「お前以外に誰がいるってんだい、このトウヘンボク」
確かに、南海子の言葉通りだった。
河渡商事社長室、この部屋には彼女と銀二の二人しかいなかった。
「トウヘンボクはひどいなぁ、姉さん」
苦笑いする銀二に南海子は言い捨てた。
「トウヘンボクでも勿体無いくらいだよアンタみたいな奴には。
 どうせまたアタシの話も聞いてなかったんだろうさ」
「いや、聞いてたよ。……えーと、大変だね旭日会の連中は」
白い目で見られるのに耐えきれなくなって、銀二は二秒で前言を翻した。
「あー、ごめん。聞いてなかった。もう一回話してよ」
再び南海子はため息をつくと、最初から仕事の説明を始めた。


今度は途中で呆けることもなく、銀二は話を聞き終えると部屋を出ていった。
銀二と入れ替わりに入って来た黒服は、南海子に小声で問い掛けた。
「あのチンピラ、信用できるんですか?」
「チンピラとは随分御挨拶だね。仮にもアタシの“弟”だよ。口を慎みな。
 ……まあ、確かに頼りないけど、不思議なことに仕事だけはこなすんだよ。
 本当に使えない奴ならこんな面倒に巻き込みゃあしないよ」
南海子は珍しく、どこか穏やかな笑みを浮かべていた。


Cast
“砂の中の銀河”河渡銀二(レッガー◎、ハイランダー●、ニューロ)


Guest
“夜の女王”音羽南海子(ミストレス、クロマク◎、ニューロ●)


Author
松江あきら
0:28 05/07/17